Microsoftが見るのは絵ではなくファイル

2026年9月14日、Microsoft Advertisingが "AI-generated and synthetic content in advertising" という専用のヘルプページを公開した。つまり、AI が作った、あるいは大幅に手を入れた広告のためのルールだ。ニュースは同日のうちに業界を回った。Search Engine Land が解説記事を出し、PPCコミュニティのタイムラインには Hana Kobzová がこのページを引き上げた。面白いのはディープフェイク禁止の一行ではない。あれは誰もが予想していた。面白いのは別のところだ。プラットフォームは、透かし、メタデータ、そしてそのコンテンツがどう作られたかを示すファイルの来歴情報を保持することを求めている。これまで審査は、クリエイティブに何が描かれているかを見ていた。これからは、ファイルの中に何が入っているかも見る。
順番に整理する。Microsoft が具体的に何を求めているのか、機械可読の痕跡は目に見える表示とどう違うのか、その痕跡はどこで勝手に消えるのか、そして広告アカウント内で直接生成した画像はどう扱うのか。
2026年9月14日にMicrosoft Advertisingが広告主に求めたこと
プラットフォームの書き方は慎重だ。AI が広告を作った、あるいは大幅に変更した場合、消費者にそれを知らせる必要があるかもしれない、という言い方。ここでの "かもしれない" は選択の自由の話ではなく、開示の要件が国ごとに違うという話だ。法令遵守の責任は、配信するそれぞれの地域の広告主に Microsoft が押し付けている。5 か国に配信する 1 つのキャンペーンは 5 セットの要件であり、それを解きほぐすのはクリックに金を払っている人間の仕事になる。
ページにはさらに 3 つの要件ブロックがある。生成の事実の開示、許諾の有無、そして人物の肖像や声の利用に関する個別のルール。加えて、来歴の技術的な痕跡に手を触れないという要件。
新ルールによる非承認の理由として、Microsoft は 5 つを挙げている。
- 禁止されるディープフェイク
- 実在の人物や組織へのなりすまし
- 他人の肖像や声の無許諾での利用
- 開示が求められる場所での必須開示の欠如
- ファイルの来歴に関する機械可読データへの介入
最後の項目がニュースだ。最初の 4 つは広告の中身の話で、形は違っても大手広告システムのルールならどこにでも見つかる。5 つ目はファイルの話だ。広告システムがクリエイティブの掲載可否を、画面上で人が見るものだけでなく技術データの保全と直接結びつけたのは、これが初めてだ。
背景を知っておくと役に立つ。Microsoft には 2024年から合成コンテンツの個別ルールがあったが、政治広告限定だった。当時は選挙キャンペーン向けの狭い話に見えた。今は同じ論理が一般要件に引き上げられ、政党の選挙本部と同じように靴屋にも関係する。
目に見えないメタデータは画像上の "AI 制作" 表示とどう違うのか
ここは混乱しやすい。どちらの痕跡も透かしと呼ばれるのに、働き方が違うからだ。
機械可読の来歴データはファイル内部の記録だ。何で作ったか、いつか、どのツールか。それに加えて、ピクセル自体や音声に埋め込まれた、気づかれない透かし。人間には見えず聞こえず、読むのは機械だ。Microsoft はわざわざこう書いている。Microsoft 自身の AI ツールで作られたコンテンツは、そうしたデータと目立たない透かしをデフォルトで含む場合がある。
目に見える開示は人間向けの表示だ。画像の隅の極小の一行、動画のキャプション、ナレーションの一言。Microsoft は開示を分かりやすくし、それが関係するコンテンツのすぐ隣に置くこと、どこか離れた場所ではないことを求めている。プラットフォームの推奨は、表示を画像や動画に直接埋め込むこと。それに対応するフォーマットなら、広告に既にある免責文の機能を使ってもよい。
そしてこの項目からの一番の結論。目に見えないシグナルはユーザーに見えないのだから、開示とは見なされない。つまり、Microsoft のツールで画像を生成し、ファイル内に必要なメタデータが全部入ったから安心、とはならない。目に見える、あるいは耳に聞こえる表示は、広告主が自分で付ける。ファイルは審査と話し、表示は人間と話す。両方の会話が必要だ。
"AI 制作" の表示が誤認を招くクリエイティブを救わない理由
ルールには独立した一行がある。開示は虚偽を正当化しない。AI について正直に表示した広告でも、中身が嘘なら非承認、配信制限、取り下げの対象になり得る。
これは大事だ。誘惑は明らかだから。隅に一言入れた、つまり警告した、つまり何を描いてもいい。違う。Microsoft は入稿前に AI クリエイティブを 4 つの点で事実と照らして確認することを推奨している。そこに写る人物、商品、場所、主張と出来事は本物であること。存在しない生成モデルがフレームに映るのは 1 つの話。実際には別の仕様で売っている商品を生成したのは、もう別の話。指定した住所に存在しない店舗のファサードは、3 つ目の話だ。
Search Engine Land は解説でこう定式化した。Microsoft は広告での AI を禁じているのではなく、広告を作るための AI 利用と、視聴者を騙すための AI 利用を切り分けている。すっきりして役に立つ言い方で、生成ツールへのブリーフ段階のフィルターとして頭に入れておける。
[例が必要] ルール公開時点で新ルールによる公開の非承認事例はないので、審査が実際どれだけ厳しいかを判断するのはまだ早い。
来歴データが悪意なしに勝手に消える場所
Microsoft は AI アセットからメタデータと透かしを切り取らないよう求めている。書き方は意図的な消去の話のように聞こえる。しかし実際には、このデータは通常の制作フローの中で失われることの方が多く、誰も気づかない。
ファイル内の痕跡を消すもの。
- ダウンロードではなくスクリーンショット。新しいファイルで、内部に履歴は一切ない
- オンラインのコンバーターや画像圧縮ツールでの再保存
- エディタでのリサイズや切り抜きで、書き出し設定が "メタデータなし" になっている
- コラージュの組み立て。生成画像が 5 レイヤーのうちの 1 つになる
- 仲介を経た書き出し。ファイルがメッセンジャーやタスク管理ツールを通り、そこで画像が自動的に再エンコードされる
最後の項目が一番厄介だ。デザイナーの手の中にないから。画像をチャットに送り、そこから戻ってきたときにはもう別のファイルで、そのまま広告アカウントに入っていく。
ここから単純な作業ルールが出てくる。生成ツールからのオリジナルは別に保管して編集せず、レタッチはすべてコピーで行う。審査や法務が画像の出所を尋ねたら、内部データ付きのオリジナルがその答えになる。保管はキャンペーンのブリーフと同じ場所、生成日とツール名を付けた 1 つのフォルダにまとめるのが楽だ。
- 生成ツールからのオリジナルが手つかずで保管されている
- レタッチはコピーにのみ行っている
- 書き出しで "メタデータを削除" のチェックを外している
- ファイルは広告アカウントに直接アップロードし、メッセンジャー経由ではない
- 生成に関する目に見える、または耳に聞こえる表示がある
広告アカウント内で生成したクリエイティブをどうするか
画像やテキストのバリエーション生成ツールは、今やほぼすべての広告アカウントに組み込まれている。そしてこれが AI クリエイティブを手に入れる最も多いルートだ。特別に何も生成していない、ただ "バリエーションを作成" を押しただけ。Microsoft のルールでは、そうしたコンテンツも同じ要件の対象になる。来歴の面では、むしろ有利な立場にある。Microsoft の AI ツールで作られたファイルには、メタデータと目立たない透かしが既に含まれている場合がある。
だが目に見える開示はそこにない。プラットフォームが代わりに付けてくれることはなく、ページにそう明記されている。だから手順はこうなる。
- どの広告が生成を使って組まれたかを自分の側で印を付ける。AI がテキストだけ書き直した、背景だけ差し替えたものも含める。
- 配信する市場ごとに、そこで必須の開示が要るかを確認する。
- 必要な市場では表示を付ける。フォーマットが対応していれば広告の免責文機能で、そうでなければ画像や動画に直接。
- 表示が関係する要素のすぐ隣にあり、大きいモニターのモックアップだけでなくモバイル画面で読めることを確認する。
だいたい壊れるのは手順 1 だ。1 か月働けば、キャンペーンの 40 本のクリエイティブのうちどれに生成ツールが触ったか、誰も覚えていない。だから生成の印は、更新を忘れられる別の表ではなく、ファイル名やアセット名の中に直接持たせた方がいい。
2026年9月半ばの他の変更とどう並ぶか
このテーマは 2026年9月15日の業界デイリーまとめに、Google でキャンペーンを回している人が知っておくべき 2 件と一緒に載った。
1 つ目。Google が AI Mode の中で "Sponsored" の表示付きのテキストリンク広告をテストしている。つまり、検索がリンクの一覧ではなく生成された文章で答えるモードの中だ。広告が AI 面に入り込み、そこでの表示がインターフェースの一部になっていく。
2 つ目。2026年9月15日、Performance Max に "Where should people go after clicking your ads?" という選択肢が現れた。Performance Max は Google Ads の自動キャンペーンで、システムが予算を Google の全面に自分で配分するものだ。選択肢は 2 つ、サイトか Google 上の店舗プロフィール。サイトが実質なくてマップと検索のカードだけがある人には、目立つオプションだ。
3 つ目、同じまとめから。Google が、目標コンバージョン単価と目標広告費用対効果の自動入札である Target CPA と Target ROAS のアルゴリズム再構築が 2026年8月17日から 2026年8月27日まで行われ、9 月のキャンペーンより前に完了したと認めた。8 月末に入札が跳ねていたなら理由が分かったわけで、9 月の数字はきれいなものとして扱える。
- 2024年Microsoftの合成コンテンツのルールは政治広告のみ
- 2026年8月17日から27日GoogleがTarget CPAとTarget ROASを再構築
- 2026年9月14日MicrosoftがAIクリエイティブの一般ルールを公開
- 2026年9月15日Performance Maxにクリック先の選択肢が登場
今週やること
- Microsoft Advertising のアカウントを開き、画像、動画、音声、テキストのいずれかの制作に AI が関わった広告に印を付ける。せめてリストだけでも。
- その中から人物が出てくるものを探す。顔、声、特徴のある話し方。1 つずつ、許諾があるかを答える。答えがないなら、はっきりするまで配信を止める。
- 配信国ごとに開示が必須の場所を確認し、広告の免責文かクリエイティブ内に直接、表示を付ける。
- 生成ツールのオリジナルを無編集で保管するルールと、コンバーターやメッセンジャー経由でのファイル再保存の禁止を導入する。
- 次の入稿のたびに、Microsoft の 4 項目でクリエイティブを通す。そこに写る人物、商品、場所、主張と出来事が事実に一致しているか。
絵の確認ではなくファイルの確認は、思っているより習慣を大きく変える。デザイナーは何年も正反対をやってきた。メタデータを消し、圧縮し、リサイズし、余分なものなしで書き出す。その余分なものが、今は必須になった。
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